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ねぇ、アイリーンちゃん。サポーティブ・ハウスって何でんねんな?
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あのね、釜ケ崎に200軒近くあった簡易宿泊所の中には、野宿に苦しむ元日雇いの高齢者が生活保護などを受けて入居できるようにと(居宅保護)、簡易宿泊所転換型アパートにするケースがふえたわよね。でも、ただ日払いが月払いになって、ホテルの看板をはずしただけの、居住水準向上につながっていないものもあるでしょ。ただ生活保護受給者を部屋に入れればいい、という感じ。しかも、役所の統計資料までがそういうのもいっしょくたにして、"福祉マンション"と呼ぶ風潮がある。そこで、<釜ケ崎高齢者をささえるための一定水準のハードとソフトを備えた住居>をサポーティブハウスと呼ぶようになったの。理由は、二度と野宿に戻らないためには、生活基盤のもろさを補う継続的なサポートこそが重要だということをアピールするためなの。 そうしてようやく地域に根ざした自立が可能になるのだと。
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フーン。で、何が備わっておれば、サポーティブハウスって呼ばれるんでっか?
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今の段階では、次の2つが最低必要でしょうね。
イ)ハード面では、少なくとも共同リビングを備えていること。
ロ)ソフト面では、居住者への生活相談体制がきちんとしていること。
共同リビングがあるからこそ、生活相談や金銭管理、在宅型栄養相談、訪問診療、とじこもりの克服、なかまや地域との交流や生きがいづくりなどへの支援(サポート・プログラム)が可能なの。逆に、そういうソフトがあるからこそ、リビングに人が集まり、笑顔があふれる。これは、これまでのまちづくり実践の中から出てきた教訓なの。わかる?
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わかりまんがなぁ。ワシも現場で見てるし。で、地域内にいくつくらいあって、どのくらいの人たちが住んでまんねん?
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釜ケ崎のまち再生フォーラムにも参加し、そうした方向を明確にもっておられるところは、エートね、(2002年6月末)現在7軒、約700人よね。入居時の保証人も一銭の保証金もいらず野宿から即座に居宅保護に移れる道を運動の知恵で切り開いた点でも画期的だけど、これだけの人のいのちを日々、生活現場でささえているわけで、行政も(私たちもだけど)厳粛に受け止めるべきよね。わかる?
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わかりまんがなぁ。ワシも現場で見てるし。でもなぁ、なんでそんなもんができたんや?
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そう、そこがたいせつなのよ。
大阪市の野宿者対策の基本は施設やシェルターへの「収容保護」なの。一般アパートなど「在宅型」への直接ルートは認めない。当然、収容されることをいやがる人々は多い。運動体によって裁判にまでなっているのよ(佐藤裁判)。(→02年3月22日の大阪地裁第一審で、大阪市側の敗訴となった)
でもねぇ、そもそも福祉は在宅型で実施するのが世界的な流れなのよ。そこで、1999年に釜ケ崎地域の簡易宿泊所組合はまちづくりグループと勉強会を重ねて、ホテルの空き室を市が借りあげて野宿者支援に活用してほしいという「2000室活用プラン」を市に提案したの。労働者はそこが住み慣れているし、税金コストもうんと安い。ニューヨークその他でも大いに根拠があるとして採用している。ところが、市はこれも拒否したの。そこで、野宿者支援のまちづくり運動の人々は行政の支援なしに自力で新しい道を開くしかなくなったの。その一つが、この簡易宿泊所転用型アパートなの。だから、いくつもの制約条件の中であえて挑戦しているわけよ。いきなりスーパーなものを求めて解決を永遠に先送りするのでなく、今そこにあるものを可能なかぎり改善し、活用したい。それが釜ケ崎のまち再生フォーラムの立場なの。
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わかりまんがなぁ。ワシも現場で見てるし。でもなぁ、世間には「高齢者には欠かせないエレベーターがあり、プライバシーが守られる個室に、テレビも小さな冷蔵庫などもついている点は評価できる。しかし、3畳間ではしょせんせまいわいな」「なんぼ清潔でも、共同キッチン、共同トイレではねぇ?」と言う人もいてる。でも、入居者はケロッとしているところもある。どう考えたらええねん?
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「広さ原理主義」でいけば、確かにせまいに決まっているわよ。私だって初めはそう考えていたもの。今もそうかもしれない。でもね、あなたが見たとおり、現実はもう少し複雑なの。
もともと、これをワークショップで議論した釜ケ崎のまち再生フォーラムでも次のようなビジョンだったの。冷たいコンクリートの上で寝るよりはシェルターへ、シェルターよりは簡易宿泊所へ、簡易宿泊所よりはサポーティブ・ハウスへ、そこからはさらに公営住宅や一般のワンルーム・マンションへというふうに、「居住のステップアップ」を本人の特性にあったかたちですすめる。これを「居住のはしご」論と呼んでたの。つまり、サポーティブハウスは通過型住居ってわけね。めでたく卒業したらその空き室を次の野宿者が順次活用する。これで各サポーティブハウスは地域資源としての効用を数倍にできる、というふうに。
ところが、現実社会の制約がたちはだかっているのよ。つまりね、釜ケ崎に限らず、大都市部の独居老人一般の居住条件がハードもソフトも未整備なわけだから、そこから先にはなかなか行けないのよ。「独りぽっちで、近所へ遠慮もし、相談相手もいない所へ引っ越せと言うのか?」「ワシは、今までの人生でここでの暮らしが一番安定している。ここで街の仲間に見守られながら、安心して死にたいんや」って言う人もいるくらいなの。
それでも最近は、力がついて自立していくケースも出るようになったの。いいことよね。東京の山谷地区みたいに単身者可の市営住宅が近辺にあればいいんだけどねぇ?。
質問への答えはここからよ。だから、どんどん歳をとっていく当事者たちには3畳間という問題は今、せっぱつまった問題ではないことがわかってきたの。それよりは別の願いがあるの。栄養のバランスやコミュニケーションの回復、アルコール障害の克服、介護や痴呆対策、生きがいづくりなどのために、健診やデイケア施設、特養、手作り作業所、ボランティア活用制度などをそろえていって、安心システムを整備することのほうが先だということがわかったのよ。
それから、「キッチンやトイレが共同だ」という指摘について言うわね。ずっと"男文化""ホテル暮らし文化"で生きてきた建設労働者たちだから、自炊やトイレそうじそのものをようやらん人も多いの。逆に、まちづくりボランティアたちが簡単な料理教室を開いたりして、生活力パワーアップを図っているような状況なの。独立したキッチンなどへのニーズが高まれば、次のステップを刺激できるから。
それでもやはりなお、今のこの段階でせまさをなんとかできるんならそれに越したことはないわ。根本的には高齢者住居改善地区対策と位置づけて、行政の本格支援が必要ね。昔も今も何もなされてないのよ。
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わかりまんがなぁ。ワシも現場で見てるし。でもなぁ、世間には「家賃が高いわいな」と言う人もいてる。
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これは、なかなかむつかしい問題よねぇ。
まず事実だけ述べるわね。ほとんどのサポーティブハウスの毎月の家賃は42.500円に設定されているわ。生活保護制度では当事者が負担するのは、それ以外の共益費とか光熱費だけなの。
オーナーさんたちの主張はこうなの。「ホテルの看板をはずして単に部屋空間を貸しているだけの、家賃30.000円のところもあるが、野宿へ逆戻りの比率も高い。しかし、サポーティブハウスは"安心生活"のためのさまざまなサービスを提供している。そうした生活の対価としてこの価格がある」と。
それからね、「高くても質がよければ希望者が多いし、安くても住みにくければ倒産する。そういう問題はやがて需要と供給の市場原理が決めていくことだ」という議論もあるの。
私はどっちかというと、この意見に近いわねぇ。
そうそう、最近はね、居宅保護の中で住居移転の選択肢が増えつつあって、この原理が働いているエピソードが聞かれるようになってもいるのよ。「ワシんとこは安いけど風呂がないから、毎月の公衆浴場代を計算しただけでも、あそこ(サポーティブハウス)が安い。移りたいねん」っていう相談があったり。こういう流れは風通しをよくするからいいことよね。
これだけのきめこまかい、社会福祉法人顔負けの居住者サポートをやっても財源が家賃収入しかない、というオーナーさんたちの嘆きも聞こえてくる。
いずれにしろ、むつかしいのよ、この問題は」
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わかりまんがなぁ。ワシも現場で見てるし。でもなぁ、世間には「けど、生活保護ばっかり増えて、街は活気が無うなるわいな」と言う人もいてる。この点はどのように考えまっか?
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これまで居宅保護になったら後はほったらかしか、役所のケースワーカーまかせだったのよ。だから、野宿や入退院のはてしないくりかえし、あるいは引きこもりなどなど、否定的な側面ばかりがめだってきたの。
けれど、法律本来の理念はそうではないはずだとみんなが気づき始め、新しい動きが出てきた。釜ケ崎周辺では当事者のささえあい組織が2つできて、なかまの安否確認やヘルパー養成など、健康上可能な範囲での仕事づくりまでしている。サポーティブハウスでは地域の夏祭りにお店を出したり、「自分がしてほしい、ちょっとしたこと」と「何かしてあげられる、ちょっとしたこと」を、ボランティアの力も借りて、地域通貨(カマ通貨)でやりとりすることも始まっているわ。金曜日を共同作業日にしたり、「小さな仕事」づくりをしているのよ。そういう努力をふだんに続ける、あるいはみんなで応援する、そういうことがたいせつやと思うわ。
それにね、もう一つ見逃せないことがあるわ。もはや野宿者ではなく、毎月確実に定収のある消費者がふえたその分だけ、地元商店街にもプラスになっている面がすでにあるのよ。これって地域経済の活性化にはいるでしょ。わかる?
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わかりまんがな。ワシも現場で見てるし。ところでなぁ、外国でのやりかたも教えてぇなぁ。
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最近では、山谷、ニューヨーク、ロンドンの似通った地域とも連携が始まっているのよ。運動レベルではネットワークができつつあるの。
たとえば2001年7月にニューヨークに山谷・釜ケ崎・東京都庁の関係者合同でつぶさに視察してきたの。1970年代からホームレス問題がたいへんに深刻化して、いろいろな対策を経験してきた。大型シェルターの失敗などもした。その結果、ホテルなどを改造した、まさしくサポーティブ・ハウジング(支援住居)が今は核なの。シェルターとちがって、サポーティブ・ハウジングは「総コスト(税金投入)が安くて、しかも政策効果があがる」ということが実証されていて、不景気の中でも、中でこそ、おしすすめられているのを見てきたわ。"まぁ、おんなじことしてる。独創的な手法だと思っていたのにィ"って、日米で大笑い。
同11月には、大阪府や大阪市も主催して日英シンポジウムがあったわね。そのときのロンドンのCANというNPOも釜ケ崎に来たのよね。釜ケ崎のまちづくりビジョンや運動、事業化の方向、その手法などを見た翌日、壇上で言ってたでしょ?「こういう市民やNPO、社会企業の力によるコミュニティ再生の方向は今、地球上のあちこちで起きている」って。
結局、そういうことなのよ。だから、自信を持って、運動や事業化を進めればいいの。カマやん、わかる?
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わかりまんがな。ワシも現場で見てるもん。
こればっかりやなぁ、ワシ。ガハハハ
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