「もしも西成市民館を建て替えるとしたら?」
その1(2001.6.30),その2(2002.11.23)(速報版)(詳細)


もしも西成市民館建て替えるとしたら? ワークショップその1

(● 釜ヶ崎のまち再生フォーラム[第10回ワークショップ])
      ※このワークショップは2001年6月30日に太子福祉館にて開催されたものです。

■釜ヶ崎地域にも高齢化問題は押し寄せています!!
 いま、釜ヶ崎地域をおおっているのは失業や野宿問題だけではありません。そこから何とか脱却したとしても、次の諸課題、たとえば単身高齢者としての生きがいづくりから介護や痴呆の問題までがヒタヒタと押し寄せています。
 そのため、NPO釜ヶ崎支援機構や反失連なども「南職安跡地等公有地を利用した、居宅保護受給者のための支援センターを開設せよ(要介護高齢者のためのケアセンター併設を)」と、市や府と交渉しています。町会などにも、西成市民館に関して取り組もうとした経過があるように聞いています。私たち、釜ヶ崎のまち再生フォーラムというまちづくりネットワークで協働している人々の間でも、同じようなニーズが高まっています。

■ 釜ヶ崎にある地域資源をもっと活用したい!!
 ところが、老朽化まかせの西成市民館も、ぽっかり空いた職安分庁舎跡地もほぼ放置された状態です。
 そこで、このたび、「もし西成市民館(または、あいりん職安分庁舎跡地)が建て替えられるとしたら、どんなものであるべきか?自分たちなりのビジョンをつくってみよう」ということになりました。
 市民館のすぐ西側は3軒の「福祉マンション」をはじめ、数百人の生活保護受給の単身高齢者が住んでおり、たとえば引きこもりや痴呆を防ぐためにも、デイケア施設などへのニーズが高まっています。一方、現市民館1階にはわかくさ保育園があります。子供たちは「宝」です。とりわけ釜ヶ崎では、ここを子供たちと高齢者の恒常的出会いの場として新しいまちづくりのシンボルに、との声もあります。その少し横には、支援ボランティアの拠点、旅路の里や喜望の家があります。これからはボランティア団体との連携で、新しい何かが生まれる時代です。また、地域医療の核であるべき大阪社会医療センターの高齢者向け施設としての機能をもたせられないか、という意見もあります。「土日に使えないのは困る。集会所として充実を」という現役労働者もいますし、町会の方々のニーズもあるでしょう。
 このように、周辺地域だけでもニーズと新しい可能性が蓄積されています。

■ みんなのニーズとアイデアを活かしたい!!〜西成市民館の活用を考えよう〜
 そこで、2001年6月30日(土)、太子福祉館において、「もしも西成市民館(または、あいりん職安分庁舎跡等)を建て替えるとしたら?」をテーマにワークショップを開催しました。
 このワークショップでは、
  1. 地域全体にどんな利用ニーズがあるのか
  2. それを充たすにはどういう建物が必要か(空間処理も含む)
  3. 建て替える場合、どんな障害や制約があるのか
  4. どこをどう調整し、交渉し、工夫したら、実現するのか
などをさぐることを目的としました。

■ 参加者の顔ぶれがますます多彩になってきました!!
 今回でワークショップの開催は10回目を数えます。
 これまでのワークショップでも、テーマによって参加者の数や顔ぶれに多少の変動はありましたが、今回は初めて、「福祉マンション」の居住者3名が積極的に参加してくれました。また、医療センターなど地域施設や機関の職員も多数参加し、参加者の総数は40人を超えました。
 参加者は、「福祉マンション居住者を中心とするグループ」「福祉マンションのオーナー・スタッフを中心とするグループ」「居宅保護受給者の生活支援をするボランティアを中心とするグループ」「釜ヶ崎の子供や女性に関わる人たちを中心とするグループ」「医療センターや労働福祉センターなど地域の公共施設・機関のスタッフを中心とするグループ」「研究者・学生・メディアなど地域外居住者で釜ヶ崎に関心を持つ人のグループ」の6つのテーブルに分かれて作業をしました。

■ワークショップはこんな風に進められました…
 各テーブルに置かれた釜ヶ崎地域の地図を囲んで、次のような3つの流れに沿って、作業をしました。
1) まず、釜ヶ崎にある施設(公園や道路も含む)の中で「普段からよく利用する施設」を、地図の中に落としていきます。そして、「その施設の不便なことや困ったこと(逆に良いところや好きなところ)」をポストイットに書いて、該当個所にペタペタ張り付けていきます。この作業を通して、グループ内で、よく利用されている施設やその施設の問題点と評価を共有します。
2) 次に、1)の作業で浮かび上がった地域施設の問題点や、高齢単身労働者が増加している釜ヶ崎の実状を考慮しながら、「これからの釜ヶ崎にあったらいいな」と思う施設的なものを書き出していきます。
3) そのうえで、「西成市民館がもし建て替えられるとしたら、期待する役割や内容」を書き出していきます。このとき、西成市民館が釜ヶ崎再生モデル区域内に位置し、わかくさ保育園、旅路の里、喜望の家などの既存施設と近接することなども、あわせて考慮します。
 作業の結果は各グループで集約した後、全体の前で発表し、意見交換をしました。

■十人十色、それぞれの暮らし方や地域との関わり方が見えてきます!!

 各グループの作業成果は、それぞれのグループのメンバーの特徴を反映していてユニークなものとなりました。作業を通して、参加者それぞれの地域との関わり方や地域の中での生活の様子がうかがえます。
□ 「福祉マンション居住者を中心とするグループ」では…
 ワークショップの手法に慣れていないため、はじめはなかなか意見が出ませんでした。ファシリテーターが、日常生活を連想させながらよく利用する施設を聞き出す形で進行し、「福祉マンション」のリビングや、スーパー、商店街、病院、銭湯などを地図に落としました。慣れてくると、図書館や老人福祉センター、区役所など、地域外の施設の名前も多く出てきて、日常生活圏の広さがうかがえました。
 施設に対する使い勝手については、問題点よりも、使いやすさやなじみについての意見が多く出ました。過去によく利用した施設を懐かしむ声なども挙がっています。
 本来の作業内容とはズレますが、全員が日課としている散歩の経路を尋ねたところ、その範囲は驚くほど後半です。肥後橋や天満の教会に行ったり、亀を見に四天王寺に行ったり、中之島のバラ園に行ったりと、個々人によって楽しむコースは違い、また時間帯も早朝4時から夕方までさまざまで、朝・昼・晩と1日3回散歩に出る人もいました。1回の散歩に1時間以上の時間をかけることはザラのようです。散歩の途中の公園で、朝食の残りをスズメにあげる人もいました。高齢者優待パスも有効に利用されており、大阪市内を自由に行き来している人もいました。
 「あったらいいな」という施設や「西成市民館に期待する役割や内容」は特にあがっていません。逆に、現在の生活にかなりの満足と感謝の念を抱いていて、「釜ヶ崎は住みやすいまち。探せばなんぼでもおいしいところがある。」という意見が出ているほどです。
□ 「福祉マンションのオーナー・スタッフを中心とするグループ」では…
 よく利用する施設として、主に、福祉マンションの居住者を通して関係性の深い地域施設(警察、福祉事務所、信用金庫・銀行、病院、協友会関連施設など)や、簡宿組合の活動などで利用する施設が挙げられました。
 1日のほとんどは「福祉マンション」にいて、必要な時だけ地域の施設に赴く、という行動パターンであり、「あったらいいな」という施設や「西成市民館に期待する役割や内容」も、居住者を通しての考察に終始しました。
□ 「居宅保護受給者の生活支援をするボランティアを中心とするグループ」では…
よく利用する施設は、セミナーや集会で利用する施設に集中しました。
 「あったらいいな」という施設については、就労支援、高齢者の生きがいづくり、介護・看護問題に対応するさまざまな施設が挙げられました。最終的には、西成市民館一帯を「総合的な生きがいづくりゾーン」、市立更正相談所は改組して福祉事務所を入れた「行政サービスゾーン」、あいりん職安分庁舎跡地はデイケアなどを含む「高齢者福祉ゾーン」にする、という構想が提案されました。
□ 「釜ヶ崎の子供や女性に関わる人たちを中心とするグループ」では…
日頃から子供や女性を通して地域の暮らしをよく見ているので、非常に多くの施設を挙げてその問題点を指摘しています。指摘された箇所は地域の全域に行き渡っています。
 改善案や将来展望についても、多くの意見が寄せられました。あらかじめ、子供自身が書いた「西成市民館を建て替えるとしたら…」も張り出されました。「プールのある市民館」「お風呂のある市民館」「動物や虫がいっぱいいる保育園」「雨でも広く使える大きな部屋」など、子供の視点から見た理想の市民館像が紹介されました。また、「プレイパーク」「女性専門の相談機関」「家族や子供のためのショートステイ施設」など、女性・家族・子供のための必要な施設が数多く提案されました。
□ 「医療センターや労働福祉センターなど地域公共施設・機関のスタッフを中心とするグループ」では…
メンバーが所属する施設にコメントが集中しました。また、通勤などで利用する最寄りのJRや南海、地下鉄の駅の不便さが細かく指摘されました。
□ 「研究者・学生・メディアなど地域外居住者で釜ヶ崎に関心を持つ人のグループ」では…
現状の施設にはなじみが少ないため、問題点はほとんど挙がりませんでしたが、釜ヶ崎に対する将来展望や新しいアイデアについて豊富な意見が出ました。「下町ミュージアム」や「まちかどオブジェ」、「まちづくり情報センター」、「まちづくり体験コース」など、アートやカルチャーに関連する提案が多いのが特徴です。
■ みんなの意見を総合するとこうなります!!
 テーブルごとに色合いの異なるさまざまな意見や提案が出ましたが、まとめると次のようになりました。

●釜ヶ崎でよく利用されている施設とその問題点


@ JR新今宮駅・地下鉄動物園前駅:エスカレーターがない・エレベーターがない・汚い
A あいりん総合センター:食堂は早朝から昼までで午後から夕方まで広いスペースが死んでいる・雰囲気が暗い・あいりん職安は雇用保険(アブレ)をくれるが仕事はくれない・労働福祉センターは仕事を紹介してくれるがその数が少ない・医療センターは混んでいる・主治医が決まっていない・小児科がない

B 萩之茶屋小学校:自由に運動場を使えない・休日に利用できない・一般に開放していない
C 花園公園:フェンスで囲って入れない公園て何や?
D 末盛湯:障害のある人が使えない
E 「福祉マンション」:部屋が狭い・トイレが障害者対応に充分になっていない・台所スペースがトイレに隣接していて使いにくい
F 西成市民館:汚い・やかましい(防音効果が悪い)・エレベーターがない・土日に利用できない・表示がわかりにくい・設備が悪い
G 四角公園・H三角公園:子供が利用していない・住んでいる人をどうするかが問題
I 西成警察署:一般の人と労働者や支援者への対応の仕方が違いすぎる・売人を取り締まれ!・腰が重い
J 大和中央病院:病室に詰め込むな!・病室で処置(手術)するな!・患者に親切に対応しろ!
K 鶴亀温泉:家族風呂がなくなったので夫婦で入れない
L 簡宿組合:狭い・トイレがない
M 太子福祉館:エレベーターがない・夜間使用ができない・天井が低くて声が割れる・定例的に使えない
N 西成保健所分室:エレベータがないので障害のある人が訪ねにくい
O 更正相談所:イメージが悪い
P 今池湯:男湯しかない
Q 銀行:立地が悪い・保護費に対する理解がない

●釜ヶ崎にあったらいいなと思う施設
<福祉施設>障害者のためのグループホーム・高齢者グループホーム・デイセンター・ヘルパーや訪問看護等の総合福祉サービスステーション・子供や家族や高齢者向けのショートステイ施設・リサイクル授産施設
<職業・人材育成>小規模作業所・軽作業所・シルバー人材センター・職能訓練講習・職業訓練所・生きがいボランティア就労
<病院>総合病院(訪問診療)・精神科サテライト診療所
<交流・情報発信>まちづくり体験コース(ボランティアまちづくりセンター)・地域通貨情報センター・地域交流センター・世代間交流センター・情報喫茶店・観光案内所・下町ミュージアム
<野宿者対策>女性専用相談室・緊急避難の場・ましなシェルター・野宿者のための安い洗濯場と風呂・市立更正相談所を区役所分室に
<生活・文化施設>プレイパーク・卓球場・ボール遊びできる公園・ゲートボール場・パチンコやギャンブルに代わる大人の娯楽所・労働者の娯楽施設・買物施設・フリーマーケット・リサイクルショップ・大きな図書館・公民館に図書館をコーディネート・料理室・会議室・休憩室・まちかどオブジェ・憩える道路や公園・年寄りの憩いの場・遅くまで営業している風呂屋・窓口近接・公的な給食場・健康的な飲食店・ギャル向商店・菜園や畑・バス路線・女性用トイレ・交番
<低家賃住宅>低家賃家族向け住宅・多ニーズ充足公営住宅・他地域並のワンルームマンション(バリアフリー)・団体宿泊が可能な施設・土地所有のあり方の見直し
<その他>行政組織のあり方の見直し・まちづくりからの視点

●西成市民館に期待する役割や内容
<管理・運営>隣の駐車場といっしょに建て替える・運営はNPOが独自に行なう・保育園が運営する
<福祉・医療>デイサービスセンター・デイケア・一時宿泊所・高齢者給食サービス・作業所・生活訓練所・緊急避難所・ショートステイ・野宿直前119番センター・野宿生活者法律センター・サテライト診療所・愛染橋病院小児科出張所・ミニ診療所(内科/外科/小児科)・不登校の子供のためのフリースクール・学童保育所・保育園・お風呂付
<文化・情報>ボランティア基地・釜ヶ崎資料センター・24時間365日オープンの市民広場・釜ヶ崎特産物展示販売所・フリーマーケット・リサイクルセンター・地域向講座(カルチャースクール)・中小の多目的空間・総合文化施設(スポーツ・映画・図書館)・芸術活動の場


写真 ワークショップのまとめ(原図)





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